マッカラン空港、はじまりのスロット
Day1 到着
ターミナルを出る前から、ずらりと並ぶスロットマシンが旅人を出迎えます。ここハリー・リード国際空港(旧マッカラン)はアメリカでも珍しい、空港内にカジノを抱える玄関口。プラント対ゾンビやキャノンといった派手な筐体の電飾を眺めながら、ようやく「ラスベガスに来たのだ」と実感が湧いてきました。床のタイルに反射する光が、これから始まる夜の予告のように瞬きます。
モハーヴェ砂漠のただ中に出現した、世界一のエンターテインメント都市。私は一人、ストリップの巨大ホテル群を歩き、噴水とネオンに目を奪われ、郊外へ足を伸ばしてフーバーダムとグランドキャニオンの大自然に触れました。昼の眩しさ、夜の煌めき、そして大地の沈黙――対比に満ちた数日間の記録です。
Day1 到着
ターミナルを出る前から、ずらりと並ぶスロットマシンが旅人を出迎えます。ここハリー・リード国際空港(旧マッカラン)はアメリカでも珍しい、空港内にカジノを抱える玄関口。プラント対ゾンビやキャノンといった派手な筐体の電飾を眺めながら、ようやく「ラスベガスに来たのだ」と実感が湧いてきました。床のタイルに反射する光が、これから始まる夜の予告のように瞬きます。
Day1 昼
ラスベガス・ブールバードを南へ。ザ・ミラージュは1989年に開業し、テーマ性ホテル時代の幕を開けた象徴的存在です。正面ではイルカの噴水とテリー・ファター(口を動かさず歌う腹話術師)の巨大広告が客を迎え、隣の人工火山からは滝が流れ落ちていました。砂漠のど真ん中に水を浪費する贅沢こそが、この街の美学なのだと改めて思います。
Day1 昼
信号待ちの先に現れたのは、ヴェネチアンとパラッツォ。ヴェネツィアのドゥカーレ宮殿や鐘楼、リアルト橋を実物大で再現したリゾートで、館内には屋内運河とゴンドラまで通っています。隣接するパラッツォと合わせ客室数は7,000を超え、世界最大級のホテル群。本物のヴェネツィアを訪れた記憶と重ねながら、青空に伸びる純白のファサードを見上げました。
Day1 昼
リンク・プロムナードに立つハイローラーは、高さ167.6m、世界でも有数の大観覧車。28人乗りの球形ゴンドラに揺られ、薄暗い天井を見上げると、金属メッシュとケーブルが幾何学的に光を反射していました。空調の効いたガラス球の中で、外気40度を超える砂漠の街を静かに俯瞰する。一人旅にこそふさわしい、内省的な時間でした。
Day1 午後
1946年開業、ストリップ最古参のフラミンゴ・ホテル。中庭には熱帯植物に囲まれたウィルドライフ・ハビタットがあり、滝と池に錦鯉、ペリカン、そしてホテルの名の由来となったチリフラミンゴが暮らしています。ギャンブルの喧騒からほんの数歩、木陰で羽繕いをするペリカンを眺めていると、時計の針がゆっくり進むようでした。入園は無料、静かな避暑地です。
Day1 午後
ストリップの主役、ベラージオの噴水湖。約3万平方メートルの人工湖で、音楽に合わせ最高140mまで水が舞い上がる名物ショーが演じられます。湖越しに望むのは、向かいに建つパリス・ラスベガスのエッフェル塔。本物の半分のスケールながら、青空を背に堂々たる姿でした。砂漠の中に浮かぶ蒼い水面と鉄の塔――この街の象徴的な一枚です。
Day1 午後
ロビーから一歩奥へ進むと、季節ごとに装飾が一新される温室、ベラージオ・コンサバトリーが広がります。訪れた時はアジアをテーマに、巨大な蓮のオブジェと滝のように垂れる白い花、紅葉した盆栽風の植栽が組まれていました。100名以上の専属園芸家が手掛けると聞き、思わず見上げて立ち尽くす。カジノの隣に植物園を置く発想こそ、ベラージオの上質さの源です。
Day2 朝
南端へ歩を進めると、自由の女神とエンパイアステートビルが現れました。ニューヨーク・ニューヨーク・ホテルは1997年開業、12棟のミニ摩天楼でマンハッタン島のスカイラインを再現し、外周にはローラーコースターが走ります。芝生の前庭から見上げるパステルカラーのビル群は、本家よりむしろポップで愛嬌があり、思わず笑みがこぼれました。
Day2 昼
ストリップ南、エメラルドグリーンの巨塔がMGMグランド。客室数約5,000で長らく世界最大ホテルの座にありました。正面ゲートには、映画会社MGMの象徴である高さ13.7mの黄金のライオン像が鎮座し、青空の下で重量感ある姿を見せています。背後にはハッカサンの広告、エンターテインメント帝国の縮図のような一角でした。
Day2 午後
車で南東へ約45分、ブラックキャニオンに刻まれたフーバーダムに到着。1936年完成、高さ221m、当時世界最大の重力式アーチダムです。手前を跨ぐのはマイク・オキャラハン-パット・ティルマン記念橋(2010年開通)。ダム湖側に並ぶ4本の取水塔と、極端に下がった水位を示す白い帯が、近年の干ばつの厳しさを物語っていました。
Day2 午後
ダムの上流側に広がるのはミード湖。フーバーダムの建設で生まれたアメリカ最大級の人造湖で、コロラド川の水を蓄え、ラスベガスやロサンゼルスの生活を支えています。湖面に映る赤茶けた岩肌と、白く残る往年の水位線。静かな水面の向こうに峡谷が続く眺めは、人工物でありながら大自然の風格を帯びていました。
Day3 朝
翌朝、さらに東へ。世界遺産グランドキャニオン国立公園のサウスリムに立ちました。コロラド川が約600万年かけて削った峡谷は、長さ446km、最深部1,800m。足元の白い石灰岩から、赤、紫、緑へと地層がグラデーションのように沈んでいきます。崖縁に腰を下ろし、地球の時間スケールを前に、自分の旅程など砂粒ほどに思えてきました。
Day3 夜
ストリップに戻り、北端のストラトスフィア・タワー(現ザ・ストラット)へ。高さ350mはミシシッピ以西で最も高い展望塔で、頂上には絶叫アトラクションも備えます。展望デッキから見下ろすと、ストリップが一筋の光の川となり、地平線まで碁盤目状の街灯りが続いていました。「ガラスにもたれるな」の注意書きが、足のすくむ高度を物語ります。
Day3 深夜
窓際の席で、もう一度ラスベガスの夜景を眺めます。ガラスに映る自分の影と、その向こうで明滅する数えきれない光。砂漠に湧き上がる蜃気楼のような街は、ホテルの部屋からも、塔のてっぺんからも、いつまでも消えません。一人で旅した数日が、この光の海の底へゆっくりと沈んでいきました。
華やかな張りぼての都市と、何億年もかけて削られた峡谷。両極を行き来したこの旅は、人の業と自然の悠久がひとつの大地に同居していることを、静かに教えてくれました。