成田発、ベトナム航空で南へ
2023-01-01 09:21 – 09:23
新年の成田空港、サテライトから青いベトナム航空機を見下ろしています。ハノイのノイバイ国際空港まではおよそ五時間半、機材はエアバスA350。窓の外で給油車が動き出し、出発準備が整っていきます。元日の朝に旅立つというのは、思い切って新しい一年を始める儀式のようでした。ボーディングパスにスタンプ、これから熱帯モンスーンの国へ向かいます。
正月の成田を発ち、ベトナム航空でハノイへ。聖夜の余韻が残る大聖堂、霧に沈むハロン湾の世界遺産、千年の都ハノイの古刹群、そして雨の中部高原バックマーを越え、最後はグエン朝の都フエで王宮と帝陵に立つ。新年の連休を一人で歩いた、五日間の北中部縦断記です。
2023-01-01 09:21 – 09:23
新年の成田空港、サテライトから青いベトナム航空機を見下ろしています。ハノイのノイバイ国際空港まではおよそ五時間半、機材はエアバスA350。窓の外で給油車が動き出し、出発準備が整っていきます。元日の朝に旅立つというのは、思い切って新しい一年を始める儀式のようでした。ボーディングパスにスタンプ、これから熱帯モンスーンの国へ向かいます。
2023-01-01 18:57 – 19:14
ハノイ旧市街の中心、聖ヨセフ大聖堂の前に立ちました。1886年、フランス植民地時代に建てられたネオゴシック様式の聖堂で、パリのノートルダムを模した双塔がライトアップに映えます。元日の夜、正面には「Emmanuel 2022」の青いネオンと巨大なクリスマスツリー、聖家族の御像。アジアの古都に灯る西欧の祈り、東西の時間が同じ広場に重なって、不思議に静かな到着の夜でした。
2023-01-02 20:06
夜のホアンキエム湖畔、無数のバイクが光の川になって流れていきます。ハノイ旧市街の南端に位置するこの湖は、十五世紀の黎朝の伝説「神剣を返した亀」が眠るとされ、水上に建つ亀の塔と玉山祠で知られます。私はその喧騒を信号待ちで眺めながら、ここがアジアの首都なのだと身体で理解しました。クラクション、ヘッドライト、屋台の油の匂い。ベトナム最初の夜です。
2023-01-02 11:59 – 14:21
ハノイから車で約三時間半、ハロン湾の遊覧船桟橋に着きました。三千近い奇岩島が浮かぶこの湾は、1994年にユネスコ世界自然遺産に登録された石灰岩カルストの宝庫です。霧と小雨にけぶる港には木造のジャンク船「PHONG HAI」「PHONG AN」が並び、万国旗がはためく。そして上陸地の看板には「HANG SUNG SOT」の文字。ベトナム最大級の鍾乳洞、スンソット洞(驚嘆洞)へ向かいます。
2023-01-02 14:53 – 17:01
ボウルング島の山腹に口を開けるスンソット洞は、三つのホールが連なるハロン湾最大の鍾乳洞です。フランス人が二十世紀初頭に発見し「La grotte des Surprises 驚嘆の洞」と名づけました。緑に覆われた石段を登り、頭上にせり出す石灰岩の天蓋をくぐる。出てくる頃には小雨が強くなり、桟橋へ戻る道の樹々が雨に濡れて光っていました。地形そのものが寺院のような場所でした。
2023-01-03 09:21 – 09:22
ハノイ第二日。霊廟広場の一角に建つ一柱寺(チュアモッコッ)を訪ねました。1049年、李朝二代皇帝・太宗が観音菩薩の夢に応えて建立した、ベトナム仏教の象徴的木造建築です。一本の石柱の上に蓮の花のごとく堂宇を載せる構造は二度の戦災で失われたものの、現在の姿に再建されています。緑色に澄んだ池に小さな影が落ち、千年前の祈りの形がそのまま立っていました。
2023-01-03 09:07 – 09:13
ホー・チ・ミン廟と主席府の敷地は広い植物園のような構成で、フランス植民地期の黄色い邸館とロイヤル・パームの並木が南国の朝に映えます。建国の父ホー・チ・ミンが質素な高床式の家で晩年を過ごしたのもこの庭の一隅。私は霧雨混じりの空気の中、椰子の梢の影を踏みながら、革命家の暮らした空間が驚くほど穏やかであることに気づきました。
2023-01-03 10:43 – 10:51
正月限定のひまわり花壇を抜け、タンロン皇城の正門ドアン門の前に立ちました。1010年、李朝の李公蘊が遷都して築いた千年の王城は、阮朝に至るまで歴代王朝の中心であり、2010年に世界文化遺産に登録されています。「2023」と「Hoang Thanh Thang Long」の文字が掲げられた朱の門楼、芝の旗台広場、城壁の地下発掘ゾーンと、新年の旗が風になびいて、千年の都の正月を体感しました。
2023-01-03 11:48
ハノイ西部の文廟・国子監。1070年に李朝・聖宗が孔子を祀って創建し、1076年にはベトナム最初の大学「国子監」が併設されました。瓦屋根に龍の鴟尾を載せ、白漆喰に欠落の趣を残した大忠門は、千年の学問の門です。試験合格者の名を刻んだ進士碑が並ぶ庭を進むと、ベトナムの儒学の伝統がいかに深いかが分かります。受験生が硬貨を投げて願掛けをする姿もありました。
2023-01-04 09:21 – 13:35
三日目はフエへ南下、その途上のバックマー国立公園(Vườn Quốc Gia Bạch Mã)に立ち寄りました。標高1450mまで森が続く中部の霊峰で、フランス時代の避暑地でもあります。ビジターセンターの植生・動物相パネルで2147種の植物、1729種の動物を擁することを学び、雨の中をジャングルの渓流沿いに歩きました。竹やぶ、苔むす岩、清流の白い泡。アジアモンスーンの森そのものが息づく場所でした。
2023-01-05 10:43 – 11:03
中部の古都フエへ。1802年に阮朝を開いた嘉隆帝が築いた王宮(大内)は、北京の紫禁城を範とした中華様式に独自の意匠を重ね、1993年に世界文化遺産となりました。雨に濡れた赤煉瓦の小道を抜けると、緑釉瓦の閣と石庭、池に映える盆栽群、回廊の朱と黄。戦争で多くを失いつつも、龍の鴟尾を載せた屋根が雨雲に堂々と立ち、王朝の威儀がまだここにあると感じました。
2023-01-05 09:20 – 13:56
フエの市内をフォン川(香江)が緩やかに流れています。河畔の小道を歩けば樹々と煉瓦の道、対岸には寺院の石塔がそびえる。フエは1802年から1945年まで阮朝十三代の都であり、王宮・帝陵・寺院群がフォン川流域に点在します。雨上がりのレンガ畳と濡れた葉、川面の静けさ。グエン朝最後の皇帝バオダイがこの地で退位した日のことを、ふと思い出していました。
2023-01-05 14:44 – 15:09
旅の終点はカイディン帝陵(啓定帝陵)。1925年から1931年にかけて造営された阮朝十二代啓定帝の墓所で、ベトナム伝統建築にフランス・バロックとゴシックを混ぜた異色の意匠で知られます。漆黒のコンクリート楼閣を急な階段で登り、最奥の啓成殿へ。天井には龍が雲間を駆け、壁面はびっしりと陶磁とガラスのモザイクで覆われ、中央に金箔の啓定帝座像。豪奢にして瞑想的、東西が一点で交わった部屋でした。
鐘楼の灯、湾内の霧、雨に濡れた青磁瓦。北の聖堂から中部の帝陵まで、ベトナムは一直線に長く、けれど南北で空気がまるで違いました。次に来るときはここから先、サイゴンへと足を延ばそうと思います。