ひとりの技術 — ひとり基準
店の評価軸は「美味しい・安い・雰囲気」で揃っています。 ひとりで入れるかどうかだけ、口コミの行間から推測するしかありませんでした。 それを一本の軸として作り直した記録です。
ひとりで店を探すとき、本当に知りたいことは決まっています。 カウンターはあるか。ひとりだと気まずくないか。予約は要るか。混んでいないか。
ところが既存のサービスは、この軸を持っていません。星の数は「料理の評価」であって、 ひとりで入れるかとは別の話です。「おひとりさま歓迎」のタグはありますが、 店側の自己申告なので、付ける店は少なく、付けない店が駄目とも限らない。
結局みんな、口コミを何十件も読んで「カウンター席」という単語を探すという、 非効率な推測をしています。
情報が無いのではありません。その軸で整理されていないだけでした。
変わったのは2つです。OpenStreetMapのような公開地理データが充実したことと、 数万件の裏取りを機械で回せるようになったこと。
個人が全国4万件の施設を集め、それぞれについて営業時間・価格・定休日・アクセスを 複数の出典から拾い、突き合わせる。以前なら編集部が必要だった作業です。
| 以前 | いま | |
|---|---|---|
| 母集団 | 編集部が選んだ数百件 | 40,615件(全47都道府県) |
| 裏取り | 電話・訪問 | 複数の公開情報を機械で突き合わせ |
| 更新 | 改訂版を待つ | 差分で回る |
| 軸 | 掲載基準は編集方針 | 軸を自分で定義できる |
最後の行が本題です。軸を自分で決められるなら、「ひとり」を主軸に据えたデータが作れます。
「ひとり歓迎」と店が言っているかではなく、観測できる属性から組み立てます。 業態、席の形、営業形態、チェーンかどうか。申告は集まらないし、比較もできません。
ひとりで行くとき、混雑は入りやすさに直結します。しかし混雑そのものは測れない。 そこで周辺に同業態が少ない独立店を「穴場候補」として優先表示しています。 密集地の一軒より、その一帯で唯一の一軒のほうが、ひとりでも居やすい。
閾値は業態ごとに変えています(単位はメートル)。
iso_threshold = { eat: 1050, play: 3870, stay: 4035, bath: 7140 }
飲食は1km圏に同業がなければ十分に独立。銭湯は7km圏で見る。 同じ「近い」でも、業態によって意味が違うためです。 人口密度で正規化するために、国勢調査ベースの人口データも併用しています。
値だけを持つと、それが正しいかどうかが永遠に分かりません。 だから1つの事実に、出典・URL・公式かどうかを添えて保存しています。
{ "k": "price", "v": 200, "official": true,
"src": ["city.kuwana.lg.jp"],
"urls": ["https://www.city.kuwana.lg.jp/documents/12960/18-25.pdf"],
"conflict": true }
いちばん効いた設計がこれです。出典が食い違ったとき、どちらかを選んで捨てるのではなく、
食い違っていること自体を記録します(conflict: true)。
| 実データ | 件数 |
|---|---|
| 確認済み施設 | 817 |
| 記録した事実 | 5,529 |
| うち出典が食い違っているもの | 801(14.5%) |
| うち公式ソース由来 | 2,050(37.1%) |
| 参照している情報源のドメイン数 | 1,126 |
7件に1件は情報が食い違っています。これは異常ではなく、実際の街の姿です。 価格が変わり、営業時間が変わり、更新されていないページが残る。 きれいな1つの値に丸めるほど、実態から離れます。
「正解を1つ出す」ことより、「どこまで確かなのかを見せる」ことを選びました。
ひとりで行く人にとって、外れたときの損失は同行者がいるときより大きいからです。
全国40,615施設・47都道府県。現在地からでも駅名からでも探せて、 「穴場候補」「確認済み」「チェーンを隠す」で絞り込めます。 確認済みの817件には、根拠のURLが添えてあります。
地図をひらくこの方法論は店に限りません。「既存の評価軸では答えられない問い」がある領域なら、どこでも使えます。
| 症状 | 原因 | 抜け方 |
|---|---|---|
| 件数は多いが役に立たない | 網羅を目的にしている | 確認済みの少数を別枠で見せる。40,615件のうち817件が「裏を取った」層 |
| チェーン店ばかり上位に出る | 知名度や件数で並べている | チェーンを隠す切り替えを用意する。独立店を探す人が確実にいる |
| 情報が古いと言われる | いつ確認したかを見せていない | 確認日を持たせて表示する(この地図は施設ごとに checked を保持) |
データの価値は量ではなく、どの軸で並んでいるかで決まります。
同じ40,615件でも、「ひとり」で並べ直した瞬間に、別の道具になりました。