1日ノベル化パイプライン
小説をノベルゲームにするのは、長いあいだ数か月の仕事でした。だから小説は小説のまま終わった。 それが1日に収まると、媒体の変換そのものが創作の一部になります。
1万字の短編をノベルゲームにする、と決めたとします。以前なら次が必要でした。 台詞の抜き出しと話者の割り当て、声優の手配と収録、立ち絵と背景の発注、BGMの選定、 エンジンの実装、そして公開の準備。どれも他人の時間が要るので、数か月と数十万円になります。
結果として個人は、媒体を1つ選んだら、そこで終わりでした。 小説を書いた人は小説の読者にしか届かない。ゲームにすれば届いたはずの人には、届かないままだった。
これは表現の限界ではなく、手配の限界でした。
作品の質とは無関係な理由で、届く範囲が決まっていた。
AIが外したのは「他人の時間を待つ」制約です。音声も、立ち絵も、翻訳も、 自分の手元で回せるようになった。個々の品質が人間の最高到達点を超えたわけではありません。 しかし待ち時間がゼロになったことの効果が、質の差を上回ります。
| 工程 | 以前 | いま |
|---|---|---|
| 台本化 | 手作業で数日 | 変換スクリプトで1時間 |
| 音声 | 収録の手配・数週間 | 2時間(ほぼ放置) |
| 立ち絵・背景 | 発注・数週間 | 4時間 |
| 多言語 | ほぼ不可能 | 1日 |
| 公開 | ビルドと審査 | push して1分 |
重要なのは最下段です。公開が1分になると、直すことが怖くなくなる。 完成の定義が「もう直せない」から「いつでも直せる」に変わります。
これを私は「1日ノベル化」と呼んでいます。効いてくるのは速さそのものではなく、次の3つです。
小説を完結させてから、実装に入る。
逆にすると、「話が面白いか」と「コードが正しいか」という2種類の不確実性を同時に抱えることになり、 どちらも収束しません。これは何度か失敗して学びました。物語が終わっていれば、残りはすべて機械的な作業になります。
約1万字の短編を書き終えた翌日に、フルボイス・挿絵つきのサウンドノベルとして公開しました。 さらにその翌日、7言語(日英中韓西仏独)と日英の音声、二言語同時字幕まで広げています。 約30分・ブラウザ・無料。
遊んでみる台本を素のデータにして、エンジンから完全に切り離します。こうするとエンジンを触らずに物語を増やせます。
{ bg: 'study' }
{ bgm: 'night' }
{ n: 'ミア', t: '「アッシュ様。お茶が入りました」', v: 'k-799491426' }
画面を変える命令は止まらない、人間を待つ命令は止まる。この一貫性が崩れると進行不能バグになります。
if (b.bg !== undefined) { setBG(b.bg); continue; } // 止まらない
if (b.t !== undefined) { say(b); return; } // 読者を待つ
費用対効果が最も高い判断です。全キャラに声をつけると容量が数百MBになり、置ける場所が消えます。 そして2人だけの方が「この2人の物語だ」と伝わるので、体験としても良い。 脇役は無音でも未完成には見えません。
110字を目安に句点で分割します。メッセージ窓からあふれるのが、完成品を未完成に見せる最大の要因でした。
静的HTMLをGitHub Pagesに置くだけ。バンドラを入れた瞬間に「公開=ビルド+確認」になり、
細かい改善をしなくなります。.nojekyll を1つ置けば設定は終わりです。
| 症状 | 原因 | 抜け方 |
|---|---|---|
| 話者が入れ替わって聞こえる | 台本変換の話者自動推定を信用した | 推定できない行は「未確定」で残し、人が埋める。間違いは一瞬でバレる |
| ある台詞だけ無音 | 音声ファイル名を本文のハッシュにしていて、本文を1文字直した | 改稿のたびに「参照数=実ファイル数、欠落0、孤児0」を数える |
| キャラの画風がバラバラ | プロンプトに "anime style, flat color" を入れた | 共通の画風プレフィクスとseed固定。表情だけ差し替える |
| BGMが鳴らない | 未定義キーが無音スキップされている | BGMキーの実在をassertする |
英語版の記事は Medium に置いています。 品質の担保については 新しい形の研究 の「品質検問」を参照してください。