需要の露天掘り
何を作るかを勘で決めると、たいていいちばん混んでいる場所に突っ込みます。 数万件を機械で数えれば、飽和しているテーマと誰も書いていないテーマが、その日のうちに見えます。
企画を決めるとき、個人が使える方法は2つしかありませんでした。 勘(自分が読みたいものを作る)か、後追い(流行っているものに寄せる)です。
勘は、当たれば強いが再現しません。後追いは、気づいた時点で既に混んでいます。 その中間、つまり「需要はあるが、まだ供給が薄い場所」を数字で見つける手段は、 調査会社に頼めるお金がある人のものでした。
結果として、個人の企画は飽和市場への突入か、誰も欲しがらない独自性のどちらかに寄りがちでした。
AIが外したのは「大量のテキストを分類・集計する手間」です。 数万件のタイトルから傾向を抽出し、表記ゆれを吸収し、意味の近いものをまとめる—— 以前なら人海戦術だったこれが、個人の手元で回ります。
最初はあらすじを解析していました。うまくいきません。あらすじは書き方の癖が強すぎて、 比較できる形になっていないからです。
タイトルに切り替えた瞬間に景色が変わりました。とくに日本のWeb小説の長文タイトルは、 展開そのものを記述している。つまり機械可読な「あらすじの要約」が、 最初から数万件ぶん揃っているということです。
タイトルは宣伝文ではなく、市場が何を求めているかの申告です。
数万件あれば、それは統計になります。
手順は3つだけです。
3番目が肝です。空白地帯にそのまま行くと、需要ごと空白です。 読者が既にいる場所(=飽和ジャンル)に、まだ供給されていない要素を持ち込むのが正解でした。
| 要素 | 出現数 | 判断 |
|---|---|---|
| 悪役 | 330 | 飽和(=読者はいる) |
| 魔王 | 347 | 飽和(=読者はいる) |
| 献身・自己犠牲 | 24 | 薄い層 |
| 手紙・記録 | 24 | 薄い層 |
| メタフィクション | 31 | 薄い層 |
ここから出た企画がこうです。魔王もの(混んでいる棚)× 献身 × 発見された文書(薄い荷物)。 設計図がそのまま出てきました。費用は半日、効果は企画全体の方向づけです。
魔王を討った勇者が、魔王の遺した「悪行目録・全百条」を一条ずつ検証していく短編。 混んでいる棚(魔王)に、薄い荷物(献身・発見された文書・メタ構造)を載せた結果です。 勘で決めていたら、たぶん普通の魔王討伐ものを書いていました。
読んでみる薄い要素をそのまま使うと、既にある少数と同じものになります。効いたのは視点を反転させることでした。
| よくある形 | 反転させた形 |
|---|---|
| 追放される側の話 | 見送る側の話 |
| 正体を隠す主人公 | 正体を暴いてしまう主人公 |
| 悪役が実は善人だと読者が知る | 読者だけが最後まで知らない |
| 症状 | 原因 | 抜け方 |
|---|---|---|
| 全部入りのテンプレ企画になる | 見つけた薄い層を全部入れた | 薄い層は1〜2本だけ。3本入れると既視感の塊になります |
| 数字は出たが、書く気が起きない | 市場に完全に合わせた | 数字は方向を決めるもの。何を書きたいかは自分で決める |
| 集計結果が偏る | 1つのサイト・1つの時期だけ見ている | 手元の蔵書など、別の母集団を混ぜる |
この方法が教えてくれるのは「何が売れるか」ではありません。 「どこが空いているか」だけです。そこに何を置くかは、最後まで人間の仕事です。
他の型は 新しい形の研究 に置いています。