質問の解像度 — 作らせる前に、決めさせる
AIは、言われたとおりに作ります。だから曖昧な指示からは、 整合しているのに誰の記憶にも残らないものが出てくる。 実装より前に、質問で解像度を上げる工程の話です。
人が実装していた頃、曖昧な仕様はそれほど怖くありませんでした。 書き始めれば手が止まるからです。「ここ、どうするんだっけ」で作業が物理的に止まり、 そこで考え直す機会が来る。実装の遅さが、暗黙の検問所になっていました。
見積もりも同じです。3日かかると分かっていれば、始める前に few 回は考え直します。 コストが高いこと自体が、企画を選別していた。
実装が遅いあいだは、遅さが品質保証の一部でした。
AIエージェントは、曖昧な指示でも止まりません。行間を埋め、それらしいものを完成まで持っていきます。 速さは本物です。しかし同時に、考え直す機会だった「詰まり」が消えました。
結果として現れる失敗は、バグではありません。整合はしているが、作りたかったものではないという失敗です。 しかも動くので、間違いだと気づくのが遅れます。
| 人が実装していた頃 | エージェントに任せる今 | |
|---|---|---|
| 曖昧な指示 | 手が止まる | 止まらない |
| 失敗の形 | 未完成 | 完成しているが違う |
| 気づく時期 | 作業中 | できあがってから |
| 捨てるコスト | 時間 | 時間+「もったいない」 |
最後の行が厄介です。1時間で完成品が出てくると、方向が違っていても捨てにくくなる。 速さは、判断を歪める方向にも働きます。
答えは単純で、実装の前に、質問で解像度を上げる工程を明示的に置くことでした。
私は Claude Code の superpowers にある brainstorming の型を使っています。
要点は3つです。
すべての依頼に重い手続きを課すと、誰も守らなくなります。だから最初に、 この依頼はどの重さかを宣言してから始める。
| 区分 | 中身 | 成果物 |
|---|---|---|
| 調べる | 「できるか?」を確かめたいだけ | 答え。作ったものは捨てる前提 |
| 限定 | 既にあるコードへの小さな変更 | 短い設計を口頭で。仕様書は作らない |
| 構造 | 新規・複数箇所に影響する | 質問 → 案の比較 → 仕様書 → 計画 |
迷ったら重い方を選ぶ。そして途中で複雑さが見つかったら、その場で格上げして宣言し直します(逆はしない)。
まとめて5つ聞かれると、人は雑に答えます。1問ずつ出すと、答えるうちに自分でも決まっていなかったことに気づく。 質問の本当の目的は情報収集ではなく、依頼者に決めさせることです。
ここが最も効きました。設計の分量は依頼の大きさに比例して変わるが、承認そのものは省略しない。 2文の設計でも「これでいい」と言われるまで着手しない。
「単純すぎて確認は要らない」と思った時が、いちばん危ない。
単純な依頼ほど、前提が検証されないまま進みます。
実装が止まらなくなったぶん、止まる場所を人工的に作ります。私が常用しているのは4つです。
「終わった」を主観で言わせない。コマンドの出力で示すと決めておきます。
| 工程 | 完了の観測 |
|---|---|
| 台本 | 実プレイで最終話に到達できる |
| 音声 | 欠落0 / 孤児0 |
| 背景・立ち絵 | 全キーが実在ファイルを指す |
| 公開 | ライブURLを叩いて期待の中身が返る |
エージェントは親切なので、頼んでいない改善を混ぜてきます。悪意はありませんが、 レビュー範囲が膨らみ、事故の温床になります。 「変更した行はすべて依頼にトレースできること」を規約にしておくと、これが止まります。
設計の段階で「この設計で破綻する場面を挙げて」と一度聞きます。費用対効果が最も高い質問です。 実際、多言語化のフォールバックが未デプロイを隠す問題は、この問いを飛ばしたときに起きました。
ツールが動かないとき、エージェントは「動く範囲で作った版」を完成品のように提示することがあります。 悪意ではなく、指示を満たそうとした結果です。 「品質を落とした版を成果として出さない」「方針転換したなら、したと言う」を明示しておく必要があります。
創作なら5つだけです。読後感 / 主人公の芯 / 世界の圧力 / 中心の関係 / 着地と規模。 この5つが埋まっていれば、残りは整合性の問題なので任せられます。 逆に、ここが曖昧なまま任せると、整合はしているが誰の記憶にも残らないものが返ってきます。
サウンドノベル3本、3D絵本、パズル、音楽地図など16作品。 いちばん短いものは、短編を書き終えた翌日にフルボイスで公開しています。 速さは工程を飛ばして得たものではなく、飛ばさなかったから出たものでした。
作品を見るAIに任せられないのは、実装ではありません。何を作るかを決めることと、 できたものが違うと認めることの2つだけです。