門外漢の目利き — 専門外のものを評価する方法
バグなら落ちます。「これで良いのか」は落ちません。 専門外の分野でAIに作らせると、良し悪しを判定できないまま完成品が手元に残ります。 判定できる人を用意しないと、平均が出荷される。 そのための3つの型と、6分野で測った効き目です。
自分で作れないものを人に頼むことは、昔からできました。ただし 受け取ったものを検分できる範囲でしか、頼めなかった。
クルーガーとダニングが1999年に書いています。 正しい判断を産み出す知識と、それを見分ける知識は同じところから来る。 片方を欠けば、もう片方も欠ける。専門外で出力を評価できないのは、この構造からです。
以前は、壁の越え方が学習しかありませんでした。数か月から数年かかる。 その時間が参入を止めていたので、判定できないまま大量に作ってしまう事故も起きませんでした。 エージェントが外したのは制作の側だけで、判定の側は外していません。
サウンドノベル『正解の外側』の廃棄層。同じ場所の360°背景を、2日半で6回作り直しています。 素材は KitBash3D、レンダリングは Blender。どちらも専門外でした。
並べれば違いは分かります。1枚ずつ出てきたときに言えるかが問題でした。 第2版から第5版までの4枚は、7月12日の14時11分と15時18分に打った2つの指示から連続して出ています。 次に背景について何か言えたのは、2日後です。
採点もエージェントにやらせればいい。私はそう考えて、やってみました。回りませんでした。 採点は返ってきますが、その採点が甘いのか辛いのか、こちらに判定できない。
第4版のコミットメッセージには「全方位を密なスラム建物で囲む閉塞感」と書いてあります。 エージェントが書いた文で、やったことと合っています。 床が一面のっぺりしていることは、書いてありません。 自己申告は、指示に答えた部分しか報告しません。
METRの実測が分かりやすい例です。平均5年の経験を持つ開発者16人に、 自分が熟知したリポジトリで246件の作業をさせました。 事前の予測は「24%速くなる」、終了後の自己評価は「20%速くなった」、実測は19%遅く。 熟知した領域で、この幅です。
マイクロソフトとカーネギーメロンの調査(ナレッジワーカー319人、一次事例936件)も添えておきます。 生成AIへの信頼が高い人ほど批判的思考の実行が少なく、自分への自信が高い人ほど多い。 自己申告のアンケートなので因果は言えませんが、検証の量を決めているのが出力の中身ではなく 使う側の自信の所在だった、という向きは読めます。
対処が違うので、最初に分けます。
| 真偽 — 正しいか | 良否 — 良いか | |
|---|---|---|
| 問い | 指定したものを使ったか。参照先は実在するか。数字は出典と一致するか | これは狙ったものになっているか |
| 決めるもの | 外部の事実 | 人間 |
| 機械化 | できる | できない |
| 門外漢の対処 | スクリプトに落として毎回走らせる | 自分を育てるしかない |
真偽は知識がなくても機械で守れます。やり方は 自動テストの実際 と 品質検問 に書きました。 残るのは右の列で、この記事はそこだけを扱います。
足場は1つだけです。 「AとBなら、Bのほうが自分の頭の中にあるものに近い」は、外の基準を必要としません。 出来の良し悪しが分からなくても、これは言える。ここから組み立てます。
何を決めるべきかを知らないので、良い質問は書けません。質問ごと出させます。
返ってくる一覧が、その分野の評価軸のリストになります。 自分で質問を考えるより速く、「何を知らなかったか」が先に見えます。
「視点の高さ」「霧の量」「光源の色温度」「素材の密度」。 第1版のときにこれを見ていたら、「暗い」以外の語が4つ、目の前にありました。 選べたかは分かりませんが、選択肢があることは分かったはずです。
1つでは判定できませんが、2つの差なら判定できます。 案ごとに「何を狙って、どこを変えたか」を書かせます。
2枚を並べて初めて、自分が欲しかったのが明るさではないと分かります。 差分がそのまま評価軸になる。 3案までにします。5案出すと選べなくなり、「おまかせで」に倒れます。
指定したものを使ったか、参照先は実在するか、出力の仕様は合っているか。 ここを目で見ている限り、良否を見る余力は残りません。
選択のあとに「なぜそれを選んだと理解したか」を1行書かせます。 その文が、次の依頼文になります。借り物の言葉で構いません。 私の場合、同じ語を3回ほど使ったあたりで、調べ直さずに書けるようになりました。
13日間で打った指示は80件、1日6件です。多くありません。 効いたのは回数ではなく、1周の待ち時間が数時間から数分になったことでした。
効いたかどうかは、自分の指示が変わったかで見ます。まず背景の例から。
「低ポリ」はポリゴン数の少ない簡易モデルのことで、遠景に混ざると輪郭が角張って安っぽく見えます。 12日前の私は、この語を知りませんでした。覚えたきっかけは、 エージェントが作業のたびに使った素材と設定を書いてきたことです。
6枚の明るさと、画面の密度を測りました。
第1版と第6版は、明るさがほぼ同じです。23.5 と 19.2。密度は 1.73 と 4.47 で2.6倍違う。 第1版が暗いのは何も置かれていないから、第6版が暗いのは物で埋まったうえで光を落としてあるからです。 最初に打った「背景が真っ黒」は、この2つを区別しない語でした。
密度も万能ではありません。第3版は 4.11、第6版は 4.47 で、数字はほとんど同じなのに見た目は別物です。 2軸でも足りない。足りていなかったのは視点の高さと素材の粗さでした。
同じ期間のログ80件を、1件ずつ読み直して分類しました。 専門外だったのは3Dのほかに、画像生成、音声合成、作曲、ゲームUI、物語の設計です。
80件のうち、新しく作らせる依頼35件と進行の催促5件は除きます。 残る40件が「出てきたものへの指摘」です。これを前半と後半で分けました。
言えるのは「割合が入れ替わった」までです。 前半の14%は、実体としてはたった2件です。
効いた実感があるのは5と6です。ただし比較していないので、1〜4を抜いたらどうなったかは分かりません。 言えるのは、診断型の指摘が増えた後半に、私が新しく始めていたのが 覚えた語を自分から使うことだった、という時期の一致までです。
| やってしまうこと | 何が起きるか |
|---|---|
| 「おまかせで」と答える | 軸の一覧をもらって、見ずに捨てている |
| 候補を5案以上出させる | 選べなくなり、結局おまかせに倒れる。3案まで |
| AIに採点させて終わりにする | 循環する。採点は下読み、決定は自分 |
| 状態だけを言い続ける | 方向が伝わらないので直らない。毎回「どこが」を1つ足す |
| 1回で見切る | 第3版で止めていたら、あの床のまま出していた |
質問も、候補出しも、検算も出せます。出せないのはどれを選ぶかと、違うと認めることの2つでした。 質問の解像度 でも同じ2つに行き着いています。 同じ人間が書いているので裏付けにはなりませんが、入口が「作らせる前」と「出てきた後」で正反対だったのに、 出口が同じだったことは書いておきます。
全15話・フルボイス・3つの結末のブラウザサウンドノベル『正解の外側』。 6枚目の背景は、第2話の廃棄層で360°見回せます。 作り方の詳細は 開発技術ガイド に置いてあります。
遊んでみる専門外で最初に作るべきものは、成果物ではなく自分の判定力です。
ただし判定力は、成果物を作らないと手に入りません。
だから、作りながら育てるしかない。
静かに壊れる不具合の捕まえ方は 品質検問 に、 作らせる前に決めさせる工程は 質問の解像度 に、 他の型は 新しい形の研究 に置いています。